同じ惑星の朝と夕で、大気は1,775℃違った。
要点:JWSTがウルトラホットジュピターWASP-121bの朝側と夕側を初めて分けて観測し、約1,775℃の温度差を報告(査読済み・Nature Astronomy)。ただし1天体かつ大気モデルを通した解釈値で、最大の価値は「自転で朝夕を読み分ける手法」にある。
「新しい研究で〇〇が判明」。魅力的な見出しですが、原論文を開くと、たいてい最後に長い「限界(Limitations)」の節が控えています。今日は少し趣向を変えて、手法そのものが新しい成果を取り上げます。同じひとつの惑星の「朝」と「夕」を、はじめて別々に読み分けた——という報告です。
WASP-121 b という、極端な実験室
舞台は WASP-121 b。主星のすぐ近くを回る「ウルトラホットジュピター」と呼ばれる、灼熱の巨大ガス惑星です。主星に非常に近いため、自転と公転が同期し(潮汐固定)、いつも同じ面が主星を向いています。その結果、焼けるような「昼側」と、比較的冷たい「夜側」がくっきり分かれます。
昼と夜の境目——地球でいう朝焼け・夕焼けの帯——を、天文学では「ターミネーター(明暗境界線)」と呼びます。ひとつの惑星に、朝側と夕側、ふたつの境目があるわけです。これまでの観測は、この左右をひとまとめの平均としてしか扱えないことが多くありました。
自転を手がかりに、朝と夕を切り分ける
ドイツ・マックスプランク天文学研究所(MPIA)の Cyril Gapp 氏(博士課程)らのチームは、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)で、この惑星が主星の前を横切る「トランジット」を観測しました。トランジット中、主星の光の一部は惑星の大気を通り抜けてきます。その光の成分(スペクトル)を調べれば、大気に何があるかが分かる。透過分光と呼ばれる手法です。
今回の新しさは、惑星の自転を利用して、惑星が主星の縁に入る瞬間(朝側の縁)と出る瞬間(夕側の縁)とで、届く光を分けて解析した点にあります。これにより、同じ惑星の朝側と夕側を、別々のスペクトルとして取り出せた、と報告されています。
夕側のほうが、多く光を吸っていた
解析の結果、夕側の縁のほうが朝側より多くの星の光を吸収していたことが分かりました。研究チームはこれを、昼側の熱を夜側へ運ぶ強い東向きの風(ジェット気流)の影響と解釈しています。熱を受けた夕側の大気は膨張し、より広い範囲で光を遮るため、吸収が強く見える、という筋書きです。
| 観測された縁 | 星の光の吸収 | チームの解釈 |
|---|---|---|
| 朝側(dawn) | 相対的に小さい | 夜側の冷えた大気が回り込む側 |
| 夕側(dusk) | 相対的に大きい | 昼側の熱を運ぶ東風で大気が膨張 |
報告された朝と夕の温度差は、およそ1,775℃。大気の循環が、昼側から夕側へ届くまでにどれだけのエネルギーを運ぶかを、直接測った値だとされています。
興味深いのは、こうした朝夕の非対称が理論計算では以前から予測されていた点です。今回はそれを観測で捉えた最初期の例のひとつになります。成果は査読付きの学術誌 Nature Astronomy に掲載されました。
では、どこまで「言える」のか
ここからがサグルの本題です。魅力的な数字ほど、前提を確かめておきたいのです。
第一に、これはたったひとつの惑星の話です。しかも地球のような岩石惑星ではなく、生命とは無縁の灼熱ガス惑星。「ほかの星にも朝夕の差がある」と一般化するには、同じ手法で別の惑星を積み上げる必要があります。
第二に、温度や化学組成の「非対称」は、望遠鏡で直接“見えた”ものではありません。透過スペクトルの左右差を、大気のモデルを通して解釈した結果です。モデルや仮定が変われば数値は動きえます。1,775℃という差も、その解釈のうえに立つ値だと理解しておくのが正確でしょう。
第三に、この研究のいちばんの価値は、大きな数字よりむしろ手法にあります。自転を使ってひとつの惑星の縁を左右に分ける——この読み分けが広く使えるなら、系外惑星の“天気図”を「片側だけ」ではなく「両側」で描ける可能性が開けます。派手さより、そこがいちばんの前進だと私は受け止めています。
「判明した」ではなく「報告された」。同じ星の朝と夕を分けて読めるようになった、その一歩を、数字の大きさに驚くだけで通り過ぎないようにしたいところです。